「ご先祖さまは大事にしなきゃいかん」
「私の家は江戸時代からこの家業をしていまして。」
「私の先祖は侍で。」
だれでも自分のルーツには興味を持つものです。有名人のルーツを探る番組を私もよく見ます。アメリカでは多くの人が移民のルーツを持つため、自分の祖先がどこから来たか、DNA検査をする人が多いといいます。
先日、ふと次のような疑問を感じました。
私の先祖は何人くらいいるはずなのか?
私が今生きているのはご先祖さまが過去に血を繋いでくれたからです。自分のご先祖は一体何人くらいいるのでしょうか?
図1のような例を考えてみましょう。私から見て両親がおり、両親にはまた両親(自分の祖父母)がいます。祖父母の一家同士に血のつながりが無いとします。そうすると祖父母にも両親がいて、、、。1世代前は2人の先祖、2世代前は4人の先祖、n世代前は\(2^n\)人の先祖がいるということになります。
先祖の人数のパラドックス
1世代は長めに見積もって30年としましょう。おおよそ100年で3世代、1000年で30世代です。1000年前は平安時代くらいになりますかね。平安時代の先祖の数は
10億人という結果になりました。平安時代の日本の総人口は600~700万人と推定されています[1]。ここで上記の計算に矛盾が生じます。
矛盾が生じた理由
なぜ矛盾が生じたのでしょう?実は、「家同士に血のつながりが無い」という仮定を置いていたのがポイントです。図2のように「ある親と親が数世代前まで遡ると血が繋がっている」ケースを考えると、最初のイメージとずれてきます。
改めて:先祖の人数の概算
基本的に先祖の数は\(2^n\)で増えていきますが、人口には上限Mが存在し、必ず図2のように家系同士が繋がってきます。単純化すると、おおよそ\(2^n=M\)のとき先祖の数は収束すると考えられます。つまり、
\(n=\log_2 M\)世代目が先祖の数が人口の数と同数になるタイミングということです。この考えを、直感的にみることができるツールを作ってみました。
先祖の1人から現世代への血の繋がり
各世代に一定の人口M人がいるとし、各世代が一つ前の世代からランダムに2人の両親を選ぶとして、N世代M人の家系図を構築します。以下は、各世代M=1万人、20世代にわたる家系図になります。
画面上をクリックすると、一番上の世代の誰か一人が選ばれます。青くハイライトされるのが、その人の血を引く子孫たちです。一人の人間から始まった命が、下の世代に行くほど爆発的に広がっているのがわかります。なお、現世代につながらない、血脈が途絶えたパターンも表示されます。
現世代の1人から先祖への血の繋がり
今度は逆に、画面をクリックすると、現世代がランダムに選ばれます。赤くハイライトされるのがその人のご先祖様たちです。最初は2人、4人と増えますが、ある時点から急激に集団全体に広がっていく様子が見て取れます。
\(2^n\)が人口の上限Mにあたる様子がよくわかりますよね。規模をさらに増やし、その挙動を深堀りをしてみましょう!
共通の先祖探索シミュレーション
上のグラフと同様のN世代M人の家系図を構築します。今回は15世代で1世代あたり100万人いるとして計算しました。図3は、現世代(0世代目)からサンプルを200人取り出し、i世代前に血の繋がった人がいる確率を調べた結果です。
図3では、世代を遡るごとに急激に血のつながりが増えます。これが「指数関数」的な挙動の意味です。人間の直感としては、物事はだんだんと増えていくものと思いますが、指数関数は、ある時点でそそり立つ「壁」のように一気に増加する性質があります。100万人単位の人口の場合、現世代からランダムに選んだ2人は、13世代前(30×13≒400年前くらい?)にはほぼ100%で血がつながります。
結論
当たり前といえば当たり前のことですが、上記の結論は伝統的考え方と乖離していて面白いなと思いました。人は家系というものに価値を起き、何世代にも家系図をたどりがちです。確かに「家」というものには財産や商売、地位、文化の継承という意味もあると思います。しかし、血縁という意味では、ある世代以上遡ると「昔生きていた人たち」全体を指してしまうのです。そしてその挙動は感覚よりも意外と速いのです。
コラム
蛇足ですが、人間以外の動物の話もしておきましょう。人類が家畜化した代表的な動物 ウシは、世界に10億頭以上いると言われています。ただ、DNAを調べると、現存のウシは、メソポタミア地方に生息していたオーロックスという動物の80頭の群れの子孫ということです[2]。家畜化できる性質の種をヒトが選別していくことで、多くの種の系譜が途絶え、現在のウシに繋がる先祖の数が限定的になったということですかね。面白いですね。以上です。